第十三回(2021年度)福原賞

受賞者

業績題目

柴田将敬(名城大学・理工学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

非線形楕円型方程式や幾何学的不等式にまつわる変分解析

関行宏(鳴門教育大学・大学院学校教育研究科)
(2018 年微分方程式の総合的研究講演者)

非線形放物型方程式におけるタイプ II 爆発の研究

【選考委員会構成】
坂口茂(委員長),久保英夫,赤木剛朗,石毛和弘,町原秀二,杉本充,足立匡義,片山聡一郎,高岡秀夫,川下美潮,三沢正史,坂井秀隆,熊ノ郷直人,仙葉隆


受賞者

柴田将敬(名城大学・理工学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

非線形楕円型方程式や幾何学的不等式にまつわる変分解析

受賞理由

 柴田将敬氏はこれまで変分的手法に基づいて様々な非線形楕円型方程式の解構造や凸幾何学に現れる変分問題に関して顕著な研究成果を挙げている.柴田氏の代表的な研究成果の一つである制限付き最小化問題の研究では,既存の再配分理論を改良した新しい対称再配分法を導入し,未解決だった楕円型方程式系にまつわる制限付き最小化問題の可解性を証明した.シュレディンガー型方程式に関する佐藤洋平氏との共同研究では,対応する汎関数の主要部を補助関数を用いて適切に修正することにより均衡列を用いた解析法を発展させ,非常に広いクラスの非線形項に対して無限個の解の存在が保証できる手法を確立した.足達慎二氏,渡辺達也氏との一連の共同研究ではプラズマ物理学に現れる準線形楕円型方程式について多くの成果を挙げているが,その中でもソボレフ臨界における正値解の漸近挙動に関する研究成果は,他の追随を許さない画期的なものである.さらに入江博氏との共同研究では,凸幾何学に於いて長年の未解決問題であった3次元Mahler予想を肯定的に解決している.柴田氏は実解析や変分法などの理論を精密に用い,またそれらを改良することで数多くの精密な研究成果を挙げてきたが,そこでは柴田氏の深い洞察力と変分解析への豊富な経験が遺憾なく発揮されている.このように柴田氏の変分解析における貢献は大変秀でたものであり,函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.


受賞者

関行宏(鳴門教育大学・大学院学校教育研究科)
(2018 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

非線形放物型方程式におけるタイプ II 爆発の研究

受賞理由

 関行宏氏は藤田型方程式,球面への調和写像流および細胞性粘菌のモデル方程式である Keller-Segel 系など,様々な非線形放物型方程式における解の爆発現象に対して,漸近解析の一つである接合漸近展開を用いて研究を行ってきた.藤田型方程式の解が有限時間で爆発する場合,その爆発の速さは自己相似的な爆発であるタイプ I ,それよりも速い爆発であるタイプ II に分類できる.非線形度を表す指数が Sobolev 劣臨界に属する場合には,タイプ I 爆発しか起こらないことが儀我美一・R. Kohn の両氏によって示されている. Sobolev 優臨界の場合には,さらに非線形度を表す指数が Joseph-Lundgren (JL) 優臨界に属するならば タイプ II 球対称爆発解が存在し, JL 劣臨界ならば球対称解の爆発はタイプ I に限られることが, M. A. Herrero, J. J. L. Velázquez の両氏,俣野博, F. Merle の両氏および溝口紀子氏らの活躍によって明らかにされてきた.しかし,「非線形度を表す指数が JL 臨界の場合にタイプ II 爆発解が存在するか」という問いは未解決問題として長らく残っていた.
 関行宏氏は接合漸近展開の深化と非線形項のデルタ関数近似というアイデアによって, JL 臨界におけるタイプ II 球対称爆発解の構成に成功した.さらに, 関氏は Lepin 指数の場合の藤田型方程式や,調和写像流と呼ばれる幾何学的偏微分方程式に対してもタイプ II 爆発解の構成に成功している.このように関氏の爆発現象における研究業績は,長年の未解決問題の解決を含む顕著なものであり,函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.