第十二回(2020年度)福原賞

受賞者

業績題目

川上竜樹(龍谷大学先端理工学部)
(2011 年微分方程式の総合的研究講演者,
2018 年秋函数方程式論分科会特別講演者)

楕円型・放物型方程式と動的境界条件の漸近解析

松澤寛(神奈川大学理学部)
(2019 年微分方程式の総合的研究講演者)

生態系反応拡散モデルに対するステファン問題の解の漸近挙動

【選考委員会構成】
清水扇丈(委員長),久保英夫,坂口茂,石毛和弘,町原秀二,杉本充,足立匡義,片山聡一郎,高岡秀夫,内藤雄基,仙葉隆,原岡喜重,熊ノ郷直人,小川卓克


受賞者

川上竜樹(龍谷大学先端理工学部)
(2011 年微分方程式の総合的研究講演者,2018 年秋函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

楕円型・放物型方程式と動的境界条件の漸近解析

受賞理由

 川上竜樹氏は非線形放物型方程式の解構造及び漸近挙動を中心に幅広く顕著な成果を挙げてきた.特に最近, Marek Fila氏と石毛和弘氏との共同で行った動的境界条件付き楕円型方程式及び放物型方程式の研究において,積分核を用いた解の定義の提唱の下に解の精密評価を確立し,動的境界条件付き非線形楕円型方程式の時間局所解,時間大域解,定常解の存在が全て同値であるという顕著な解構造を発見した.さらに動的境界条件下の熱方程式の拡散極限が同条件下のラプラス方程式の自然な解を選択することを導いた.一方,石毛氏と共同で開発した放物型方程式に対する解の高次漸近展開理論を,最近研究が盛んな分数冪放物型方程式を範疇に含める形に再構築した.
 最近の川上氏の深い洞察を伴う緻密な漸近解析は様々な問題に展開され, 非線形消散型波動方程式の解の高次漸近展開,指数関数型非線形項を伴う非線形放物型方程式の解の減衰評価の確立,ポテンシャル項付き半線形放物型方程式の解の爆発に関する新たな藤田臨界指数発現メカニズムの解明,Keller-Segel系の解の一意性の証明,優解による非線形放物型方程式系の解の構成法の開発, Cartan-Hadamard多様体でのSobolev不等式の最良定数を達成する関数の非存在の証明等,得られた成果は広範で顕著である.このように川上氏は微分方程式の漸近解析において幾つかの決定的な業績を挙げるとともに多くの基礎研究を為していて,その業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.


受賞者

松澤寛(神奈川大学理学部)
(2019 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

生態系反応拡散モデルに対するステファン問題の解の漸近挙動

受賞理由

 松澤寛氏は生態系に対する反応拡散型モデルの解の漸近挙動に関する研究において優れた業績を挙げた.生態系を記述するモデルの一つは,ステファン条件を伴う反応拡散方程式に対する自由境界問題により記述される.こうした問題は外来生物の侵攻や競合あるいは衰退を表すモデルと考えられ,初期値問題に現れる進行波解とは異なる興味深い様相が多くの注目を集めている.松澤氏はこうした問題に対して,精密な解の漸近挙動の定量的解析を行い, Yihong Du氏らとの共同研究により,自由境界の進行速度を高次のオーダーまで決定した.同時にこの分野の研究をさまざまな方向へ拡張し,既存の研究では現れなかった解の存在や自由境界の新しい挙動を兼子裕大氏との共同研究で明らかにした.さらに最新の研究結果は両者の方向性を併せ持つものとなっており,多重安定な反応項を持つ1次元ステファン問題を山田義雄氏や兼子氏らと共同で研究し,多段型のテラス解の挙動に関して詳細な結果を得た.特にテラス解の漸近挙動を定量的に解析し,そのメカニズムを捉えるために,テラス解が段ごとに異なる速度で進行していることを明らかにした.その証明法は初期値問題に対する進行波解の解析法とステファン問題に対する解析法を巧妙に組み合わせた興味深いものである.このように松澤寛氏の研究は生態系モデルの解析においてその勃興期から基礎的な研究を推進し,その発展に大きく貢献した.その成果は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.