第十一回(2019年度)福原賞

受賞者

業績題目

伊藤弘道(東京理科大学理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者,
2017 年秋函数方程式論分科会特別講演者)

亀裂と弾性体の数学解析

下條昌彦(岡山理科大学理学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

非線形放物型方程式における特異性と伝播現象の解析

横田智巳(東京理科大学理学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

複素ギンツブルグ-ランダウ方程式ならびに走化性方程式系の解の挙動に関する研究

【選考委員会構成】
小川卓克(委員長),久保英夫,坂口茂,石毛和弘,町原秀二,杉本充,足立匡義,片山聡一郎,高岡秀夫,内藤雄基,仙葉隆,原岡喜重,熊ノ郷直人,清水扇丈


受賞者

伊藤弘道(東京理科大学理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者,2017 年秋函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

亀裂と弾性体の数学解析

受賞理由

 伊藤弘道氏は、連続体力学における諸問題の数学的側面に焦点を当てた研究を継続して展開し、顕著な成果を上げている.構造物の力学的状況は連続体力学で扱われ、金属疲労や経年劣化による亀裂などの解析も偏微分方程式論における重要な問題である.伊藤氏は亀裂や多角形領域など、領域に特異性がある場合に線形弾性方程式の解を構成し、亀裂進展の感度解析や亀裂・空洞同定逆問題における囲い込み法に関する研究を行った.伊藤氏の解析はこれらの研究進展における必要不可欠な部分を担っており、その解析は古典的な解析手法を駆使することにより始めて得られる精緻なものである.これらの成果は応用面のみならず、数学解析自体において重要なので、高く評価される.
 亀裂が存在する場合には、弾性力学の根本を成す概念である構成方程式の正当性という問題が生じる.構成方程式は歪みと応力の間の関係を与え、偏微分方程式を生み出す関係式である.亀裂があれば応力集中を起こすので、単純な線形化では現象を反映しない上に、不合理まで生み出す.伊藤氏はこれを解消するために工学者により提唱された構成方程式の正当性を非線形楕円型境界値問題の解析に帰着させることにより確立した.
 このように伊藤氏は、亀裂などの特異性を含む弾性力学の問題において現れる偏微分方程式に対する数学解析の発展に大きく貢献した.その優れた業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.


受賞者

下條昌彦(岡山理科大学理学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

非線形放物型方程式における特異性と伝播現象の解析

受賞理由

 下條昌彦氏はこれまで非線形放物型方程式に対する様々な問題に取り組み、そのいずれにおいても顕著な業績を挙げている.
 まず、平面内の外力項付き曲率流の自由境界問題の解に対し、その漸近挙動や特異性について詳細に調べて完全に分類するとともに、面積保存型曲率流の自由境界問題の進行波解の局所指数安定性を証明した.次に、藤田型半線形熱方程式の爆発点の制御問題に関して、「空間非一様な係数の零点は解の爆発点にはならない」という予想が成立するための初期値や係数関数に関する十分条件を与え、この条件を満たさない場合に予想に対する反例を構成した.さらに、特異性をもつ被食・捕食反応拡散方程式系に対するシャドウ系の解の挙動を完全に分類してその漸近挙動を明らかにし、対数拡散方程式に対して任意の消滅解がスケーリングされた時空間において進行波に収束することなどを示している.
 以上の研究は、豊富な解析学の知識と卓越した計算力に基づき、交点数理論や力学系理論を拡張して困難な問題を解決したものである.特異性解析と伝播現象の問題を無限次元力学系の観点から統一的に結び付けた手法は、今後様々な応用が期待できる.
 以上のように、下條氏は非線形放物型方程式に現れる特異性および伝播現象に関する貢献はきわめて大きく、その優れた業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.


受賞者

横田智巳(東京理科大学理学部)
(2016 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

複素ギンツブルグ-ランダウ方程式ならびに走化性方程式系の解の挙動に関する研究

受賞理由

 横田智巳氏は複素ギンツブルグ-ランダウ方程式や走化性方程式系などの、放物型発展方程式に対する時間大域解の存在や漸近挙動に関する研究において優れた成果を挙げてきた.同氏の研究は複素ギンツブルグ-ランダウ方程式の研究に始まるが、そこでは非線形単調作用素論の立場から方程式に潜む単調構造を最適に抽出し、標準的な半線形理論では到達し難い精密な適切性理論を構築した.また走化性方程式系に関してはとりわけ初期値問題に対する時間大域解の有界性に関する結果や知覚函数に対する一般化を与えて単純な走化性モデルから多様な数理生化学への一般化を果たすと共に精密な解析学を展開した業績は著しい.同方程式系は拡散項と走化性を表す非線形項の相互作用により時間大域解や爆発解が現れる.この相互作用は二項の強さを表す指数により決定されるが、同氏は最大正則性理論を用いて方程式の線形構造と非線形構造の特徴を適切に切り分けることにより、時間大域解の存在に対するこれら指数の十分条件を既存の結果を超えて自然な範囲に拡張した.初期値境界値問題に関しても、従来の解の正則性理論を改良することで領域の幾何学的制約なしに解のLp一様有界性を証明しており、同結果は多くの引用を集めている。横田氏の解析は非線形発展方程式論に於ける新旧の解析法を駆使し、それまでの研究者が見落としていた構造を丁寧に拾い上げるものであり非常に優れている.
 このように横田智巳氏の函数方程式論に対する貢献は著しく、函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.