湘南数学セミナー・現代数学入門市民講座
−5年間の歩み−

数学通信 第5巻 第2号 (2000年8月)より

 日本数学会は, 6年前から学術委員会を中心として湘南国際村協会と共催で, 「湘南数学セミナー」および「現代数学入門市民講座」を 開催しています. 本稿ではこの事業の5年間の歩みをまとめます.

 まず,(株)湘南国際村協会を少し説明します. これは,神奈川県が主な 株主になっているいわゆる第三セクター方式の法人で, 宿泊施設,会議場,貸しオフィス等をもつ湘南国際村センターを 経営しています. 日本数学会と湘南国際村協会の共同事業の起こりは, 湘南国際村オープニング記念事業として平成7年3月に開催した, 一般向けの「現代数学入門市民講座」です. これは,第3回MSJ-IRI 幾何学的複素解析の同センターでの開催に際し, 湘南国際村協会の方から,せっかくの国際会議のなので 市民向けの催し物を考えられないかとの打診があり, 日本数学会との共催・協賛ということで開催の運びになりました. この市民講座では,小林昭七,加藤和也,クラス・ディーダリッヒ, の三氏による講演が行われました. これは,応募者の数,当日参加者の数,アンケート結果からして大成功 でした.

 その後まもなく,両者の間で高校生や一般市民を対象とした 企画を(社)日本数学会と(株)湘南国際村協会で 協力して開催できないか検討することになりました. これは,湘南国際村協会の方から見て会社のメセナ活動として その理念にふさわしく,数学会から見て正しい数学の姿を 若い世代や一般の人に理解してもらえる良い機会と考えました. 数学会の理事会でも,種々議論検討され, 平成7年度中に「湘南数学セミナー」が, 湘南国際村センターで1泊2日(正午から正午まで)の 主に高校生を対象とする集中セミナーとして始まり, これまで以下に記す5回の実績を積んできました.

この間,平成9年度の企画が終了したところで,湘南国際村協会 から学術委員会へ改めて話し合いの申し入れがあり, この企画を湘南国際村としてのメインイベントとして長期的に 開催して行きたいので,数学会としても検討して欲しい旨の 提案がありました. 学術委員会は理事会へ報告し,その結果 数学会としてもメリットのある事業と考え,合意しました. 開催の実務として,事務局的仕事は全面的に湘南国際村協会が担当し, 内容や講師の選出等学術的なことは数学会が担当するという 形態が改めて確認されました. 宿泊施設のある場所なので,遠方からの参加者が数は多くはありませんが, います. 印象に残っているのは,福岡から参加した中学生がいたことでした. その他新潟,島根,高松等からの参加者もいました. 数は少なくても,ともかく全国から参加可能であるということは 大きな利点であり,特徴と考えられます.

 ー方「現代数学入門市民講座」は, オープニング記念事業のあと3年の空白をおき, 平成10年度および11年度科学研究費補助金「研究成果公開発表(B)」 が採択されたことにともない,続編として一般向けに

が,いずれも湘南数学セミナー終了後の午後2時間弱, 国際会議場に於いて開催されました. セミナーについては50名, 市民講座については150名の定員を設け参加者を公募していますが, これまでは定員を超えた場合も希望者全員に参加頂いています.

 両事業は,上述のような理由により 神奈川県との結びつきが強いという共通の特徴があります. 5年を経た現在,ともに日本数学会, 株式会社湘南国際村協会, 財団法人かながわ学術研究交流財団の共催で開催され, 神奈川県教育委員会, 湘南国際村倶楽部の後援を得ています. また神奈川新聞の取材が毎年あり, セミナー・市民講座の様子が紙面に紹介されています.

 高校生向けの湘南数学セミナーは, 教師の個別の勧めや, 数学セミナーなど高校生には難しい雑誌の記事で知って申し込む 参加者が多く, 参加者の数学指向の強さが特徴といえます. 過去の参加者の中には, 大学で数学分野に進んだ者が相当数います. ー方, 市民講座は県のたよりの公報効果がもっとも大きく, 参加者の大半は神奈川県在住の方で地域性が特徴です. いずれの回も申込者数が定員を上回り, 会場では幅広い年齢層の聴衆が熱心に講演を聞き入っており, 神奈川県にはこうした催しが歓迎される土壌があると考えられます.

 開催のための経費は, 平成9年度までは講演者およびチューターの謝金を 学術委員会が数学会に援助を計上, その他は, 他の2主催団体からの負担金, 湘南国際村倶楽部協賛金および 参加者の宿泊実費負担などで賄われていました. 平成10年度,11年度には科研費の援助が加わり, 数学会会計への計上はなくなったものの予算は拡大し, いろいろな面で以前よりも充実しました. ー方,事業継続に科研費を申請するのはーつの選択肢ですが, 採択が保証されないため, 財政基盤の安定化を図るー層の工夫が求められています.

 以上のような経緯および現状を踏まえますと, セミナー・市民講座ともにそれぞれの参加者市場の中で順調な成長を記しており, 財政の安定化を図りながら, 備わりつつある個性を伸ばす方向で事業をさらに展開することが, 日本数学会にとって有意義であると考えられます.

(学術委員長 齊藤政彦記)