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日本数学会

小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由
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第1回日本数学会賞小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由

森 重文(京都大学高等研究院・院長/特別教授)

授賞題目
代数多様体の双有理分類
Birational classification of algebraic varieties
授賞理由
森重文氏は代数幾何学の研究で世界的な仕事を行って来られました.最も有名なものとして,3次元射影多様体の分類問題の扉を開けるとともに最終決着をつけられたことがあげられます.コンパクトリーマン面や代数曲線の分類は19世紀にさかのぼります.代数曲面の分類は20世紀前半にイタリア学派が,複素解析曲面の分類は小平邦彦氏が20世紀半ばに完成させました.曲面の場合には例外曲線と呼ばれる非特異有理曲線を1点に還元収縮することで極小モデルが得られ,分類問題は極小モデルの分類に帰着します.1970年前後から高次元の分類問題が大きく取り上げられるようになりましたが,極小モデルに相当するものの存在が大きな困難でありました.その頃,森氏は射影空間の特徴付けに関するHartshorne予想を解決しました.そこでは有理曲線の存在が問題になりますが,この解決には正標数への還元を行い正標数固有のフロベニウス写像を用いるという斬新なアイデアが用いられました.このアイデアは森氏自身による例外曲線の高次元化に相当する端射線の発見へとつながりました.これにより曲面の場合の例外曲線の1点への還元収縮に相当する端射線収縮の存在が見いだされました.森氏は与えられた射影多様体上の曲線のなす錐を研究し,錐が尖っているときに端射線収縮が起こることを発見したのです.その見事な応用として,森氏は現在では森ファイバー空間と呼ばれる3次元射影多様体の構造定理を示しました.
森氏の仕事を皮切りに3次元射影多様体の分類の研究が多くの研究者により取り組まれ,3次元の極小モデル理論へと発展して行きましたが,3次元極小モデル理論の完成にはある種の還元操作でフリップと呼ばれるものの存在が残されました.これも最終的には森氏が特異点の膨大かつ詳細な解析を行うことで決着をつけ,1990年京都での国際数学者会議においてフィールズ賞受賞となりました.
その後,森氏はファノ多様体の研究やモジュライ理論で基礎となる幾何学的不変式論においても重要な結果を残し,今世紀になっても3次元conic bundleや3次元代数多様体の端射線収縮の分類など重要な問題で成果をあげ続けています.森氏の一連の仕事は近年の高次元極小モデル理論の大きな研究の流れに繋がっています.最後に,広い意味での業績として昨年まで国際数学連合総裁の要職を務められたことも特筆すべき点であります.以上のように,森重文氏の現在までの研究業績は日本数学会賞小平邦彦賞に誠に相応しいものであります.