● 数学基礎論サマースクール ー超準解析の基礎と応用ー
日時:8月24日(火) 13:00〜17:00 25日(水) 9:00〜17:00 26日(木) 9:00〜17:00 27日(金) 9:00〜12:00 場所:名古屋大学大学院 情報科学研究科 情報科学研究科棟一階第一講義室 大学の案内図 http://www.nagoya-u.ac.jp/global-info/access-map/higashiyama/ の42番の建物です. 交通機関は http://www.nagoya-u.ac.jp/global-info/access-map/access/ にあります. 情報学研究科への道のりは http://www.is.nagoya-u.ac.jp/campusmap.html が参考になります。 申し込みは不要です。宿泊等は各自にお願い致します。 ● プログラム
8月24日(火曜日) 13:00 〜 14:00 受付 14:00 〜 17:00 超準的手法の導入と nonstandard universe の構成 (村上 雅彦) 8月25日(水曜日) 9:00 〜 12:00 弱い公理系を用いた超準解析 (横山 啓太) 12:00 〜 14:00 昼休み 14:00 〜 17:00 Loeb measureと確率論への応用 (釜江 哲朗) 8月26日(木曜日) 9:00 〜 12:00 ヒルベルト空間と超準解析、量子力学への応用 (山下 秀康) 12:00 〜 14:00 昼休み 14:00 〜 17:00 超準解析の微分方程式への応用 (知澤 清之) 8月27日(金曜日) 9:00 〜 12:00 超準解析の計算量理論,代数等への応用 (安本 雅洋) ● 講 演 概 要
超準的手法の導入と nonstandard universe の構成 (村上 雅彦)) 理論体系というものをまったく考えない素朴かつ原始的な数学と, 普通に数学といわれている数学, この二者に差異があるということを信じ, 前者を後者の中に埋め込もうとすることで, 自然に超準的手法が導入されます. ここでの超準的手法とは, いくらがんばっても, 書き下すことができないくらい 大きな自然数, すなわち超有限自然数があることを利用する手法のことをいいます. 後者--普通に数学といわれている数学--において, 述語変数や集合といった超越的な 対象を利用することで, 実際に超準的手法の枠組のひとつである超巾(ultrapower) を構成します. また, 得られた超巾には, 飽和性という性質があることを示します. 弱い公理系を用いた超準解析 (横山 啓太) この講義では,超準解析の基本的な使い方の例として, いくつかの定理の超準解析を用いた証明を紹介し, さらに,そこで用いた超準解析の基本原理(公理)が どのような強さを持つのかについて,算術の視点からの評価を紹介する. 講義の前半では,超準解析の基本的な使い方を 解析学,位相空間,組み合わせ論などの証明の例から紹介していく. 用いるのは移行原理と無限小による近似, ごく弱い飽和性(広大性)のみだが,それでも様々な証明を超準解析を用いて行うことができる. 扱いに慣れてくると超準解析では解析学等の定理の証明が通所の証明よりも直感的に行える. 講義の後半では,Keislerらにより研究されている, 超準解析の公理と算術の公理の比較による超準解析の公理の強さを調べる研究について一部紹介する. ここでは,ペアノ算術,2階算術の言語を拡張して,超準解析を記述できるような体系を考え, こうした体系の上で,前半で用いられたような超準解析の基本手法がどのような強さを持つかについて説明する. Loeb measureと確率論への応用(釜江 哲朗) Loeb空間とは,内的確率空間において確率値の標準部分を考えた 標準世界での有限加法的確率空間の完備化として得られる 確率空間である.内的確率空間として,とくに超有限なものを考えるとき, Loeb空間の可測集合は超有限集合で大変よく近似される. この性質が確率論のある種の議論を簡明にし,また,「有限」 の直観的イメージに沿った形での展開を可能にする. ここでは,ブラウン運動と保測力学系への応用を話す. ヒルベルト空間と超準解析、量子力学への応用 (山下 秀康) 超有限次元関数空間という道具を数理物理へ応用することを試みる。 ここでの問題意識は次の2点である。 1. 経路積分法の数学的正当化 2. 無限自由度物理系の量子化 この2つは互いに関係してはいるが、一応独立した問題である。今回 の発表では、まず1.について、超有限次元関数空間上の確率測度の 観点から述べる。そのためにBrown運動とFeynman-Kac-Nelson の定理について、超準解析の立場から考察する。 経路積分に関する中村徹氏の仕事についても紹介する。 次に2.について、まず古典場の理論の簡単な例について、「超有限 自由度の古典力学系」として捉えてみる。次のその正準量子化をおこ なう。 超準解析の微分方程式への応用 (知澤 清之) 超準解析による、3次元、ならびに4次元特異摂動問題の解法 はじめに、次の3次元特異摂動問題を考える。 ε dx/dt=h (x,y,ε), dy/dt=f_1 (x,y,ε), dz/dt=f_2 (x,y,ε), ε ≈0. この余次元1の3次元微分方程式は、速いベクトル場が1次元、遅いベクトル場が2次元である。 ε=0のとき、すなわち1制約条件つきの方程式の解を経由してその特異解を求めることができる。 一般に、ε ≠0 と ε=0のときの対応する方程式は、必ずしも近似できる解を持つとは限らない。 制約条件つきの方程式の特異点(擬特異点)近傍におけるblowing-upをすることにより(局所モデル)、 この近似性を確認しながら特異摂動問題の解を求めることができる。このとき、超準解析における、いわゆる、 “移行原理”が標準の実数における解の存在を保証することになる。 この解析は、E.Benoit, L.Callotらにより1980年頃から行われた。 次に、4次元特異摂動問題を考える。 ε dx_1/dt=h_1(x_1,x_2,y_1,y_2,ε), ε dx_2/dt=h_2(x_1,x_2,y_1,y_2,ε), dy_1/dt =f_1(x_1,x_2,y_1,y_2,ε), dy_2/dt =f_2(x_1,x_2,y_1,y_2,ε), ε ≈0. この余次元2の4次元微分方程式は、速いベクトル場が2次元であり、遅いベクトル場は同様に2次元である。 その解析は少なからず複雑となる。3次元のときと同じように、ε=0のとき、 すなわち2つの制約条件つきの方程式の解を経由してその特異解を求めることができる。 このとき、制約条件式は4次元空間における2次元曲面となることに注意を要する。 再び、ε ≠0 と ε=0のときの対応する方程式は、必ずしも近似できる解を持つとは限らない。 したがって、擬特異点近傍で局所モデルを構成して、特異摂動問題の解を求める訳であるが、 このとき実現可能なblowing-upが多数存在し得る。そのひとつひとつに対して、 近似性を確認しながら特異摂動問題の解を求めることができる。 さらには、この特異解が不変多様体に漸近するときの条件について議論する。 そのことは、言い換えれば中心多様体の存在条件を与えることを意味する。 この解析は、2001年頃から著者がSue Ann Campbellとカナダで始めた。 その後、一昨年に4次元の局所モデルの構成に成功し現在に至る。 超積の代数学への応用 (安本 雅洋) Hilbert体,p-進体,べき級数体,有限体,一変数代数関数 体等の構造を,超準解析(超積)を使って解明した多くの優れ た研究があり,これらを紹介します.それらの内のいくつかは, 通常の代数的な方法では証明されておらず,超準解析の有用 性を示す良い例になっています. 超準モデルの計算量理論への応用 多項式時間計算量の階層を数理論理学の立場で研究する 方法はいくつかありますが,主として証明論(カット除去定理等) を使って行われています.ここでは自然数の超準モデルを使った 手法を取り上げて解説します.