第七回(2015年度)福原賞

受賞者

業績題目

伊藤健一(神戸大学大学院理学研究科)
(2006 年微分方程式の総合的研究講演者,2008 年秋
函数方程式論分科会特別講演者)

多様体上のシュレーディンガー方程式の数学解析

岡部真也(東北大学大学院理学研究科)
(2005 年微分方程式の総合的研究講演者,2014 年秋
函数方程式論分科会特別講演者)

弾性エネルギーから導かれる勾配流方程式の解のダイナミクスの研究

熊ノ郷直人(工学院大学基礎・教養教育部門)
(2007 年微分方程式の総合的研究講演者,2012 年秋
函数方程式論分科会特別講演者)

ファインマン経路積分の数学的定式化に関する研究

【選考委員会構成】
長澤壮之(委員長),利根川吉廣,石毛和弘,立川篤,太田雅人,清水扇丈,中西賢次,片山聡一郎,小池達也,内藤雄基,仙葉隆,岩崎克則,小薗英雄,小川卓克


受賞者

伊藤健一(神戸大学大学院理学研究科)
(2006 年微分方程式の総合的研究講演者,2008 年秋函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

多様体上のシュレーディンガー方程式の数学解析

受賞理由

 伊藤健一氏はこれまで,主に多様体上のシュレーディンガー方程式を研究対象として,偏微分方程式論,作用素論双方の立場からその研究に取り組み,いくつもの成果を収めてきた.まず,散乱計量を備えたユークリッド空間上のシュレーディンガー方程式を考え,ポテンシャルの増大度が劣二次である場合に超局所的平滑化効果があることを証明した.また,中村周氏との共同研究により,散乱計量を備えたリーマン多様体上のシュレーディンガー方程式の解の超局所的特異性に関する新たな特徴付けを与えた.さらにその議論を精密化することで,変数係数を持つシュレーディンガー作用素によって生成される時間発展作用素が,自由シュレーディンガー作用素によって生成される時間発展作用素とフーリエ積分作用素との積で表されることを示した.散乱計量を備えたリーマン多様体上のシュレーディンガー作用素に対しては,散乱行列の超局所的表現をも与えている.また,Skibsted氏との共同研究により,非コンパクトなリーマン多様体上のシュレーディンガー作用素に対するスペクトル・散乱理論を展開し,波動作用素の漸近完全性や,連続スペクトルに埋め込まれた固有値の非存在など,ユークリッド空間の場合に得られている深遠な結果を,既知の結果より大幅に,それも広く応用可能な形で拡張している.
 このように伊藤健一氏は多様体上のシュレーディンガー方程式の研究で顕著な成果を挙げており,その優れた業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.